デバイス用高機能材料開発部門

センサ材料分野の研究開発

センサ(ひずみゲージ)の研究

当分野では、様々な装置や機械を正確、安全に動かすのに必要なセンサの開発を進めています。特に、引張りや圧縮といった変形により物体内に生じるひずみを測定するセンサ(ひずみゲージ)の研究を行い、優れた特性をもつCr-N薄膜ひずみセンサを開発しました。

従来に無い新たなセンサの開発

そのセンサ薄膜は、表1に示す通り、ひずみに対する感度(ゲージ率)が大きく、抵抗温度係数(TCR)および感度温度係数(TCS)はゼロ近傍と小さいなどの特長をもちます。その応用としては、ひずみの外に圧力、荷重、力、変位、トルクなどの各種力学量の計測に利用されます。さらに、高感度なことからステンレスなど剛性の高い(即ち頑丈な)基材や構造材での測定が可能となり、安全性の確保ならびに従来の低感度な金属箔ひずみゲージでは難しかった高耐荷重、高速応答、他軸干渉の低減、超小型化ならびに高精度検出などを実現することができます。
また近年、特殊環境で使用可能なひずみセンサが熱望されています。本法人では、図2および図3に示すように、高圧水素ガスおよび高温の環境下において安定で高感度に使用可能なひずみセンサおよび圧力センサなどの開発にも成功しました。従来に無い新たなセンサの開発により社会に貢献します。

アクチュエータ材料分野の研究開発

鉛を含まず優れた圧電特性を有する鉛フリー圧電セラミック厚膜の実用化に向けて

本分野では、機械的柔軟性・堅牢性に優れたフェライト系ステンレス基板上に、エアロゾルデポジション法(以下「AD 法」といいます。)により厚さ数μm~数十μmの圧電セラミック厚膜を形成し、それを用いたマイクロデバイスの研究開発を進めています。膜厚が厚いことは、力やエネルギーが関係するマイクロデバイスには極めて有利です。圧電セラミック材料は、電気的エネルギーと機械的エネルギーを相互に変換できる機能性材料ですが、現在広く用いられている材料には毒性のある鉛が多く含まれています。本分野では、鉛を含まず優れた圧電特性を有する圧電セラミック厚膜の開発と、その実用化に関する研究を進めています。

鉛フリー圧電厚膜の特性向上に関する研究

鉛を含まない代表的な圧電セラミックス材料であるBaTiO3(以下「BT」といいます。)は、その優れた機能特性を発揮させるためには高温での焼結が必要です。本分野では、このBT材料を採り上げ、熱酸化処理を施して表面にAl₂O₃相を析出させたステンレス基板上にPt電極膜をスパッタ成膜し、その上にAD法でBT厚膜を積層形成した後、高温で熱処理し、組成の相互拡散状況を分析しました。その結果、図6に示すように、1200℃で熱処理を施してもBT膜と基板間で相互拡散が生じないことが確認されました。また、ステンレス基板上にBT厚膜を成膜し種々の温度で熱処理した後、基板一端を固定し片持ち梁とし、これに電圧を印加して自由端の変位を測定しました。その結果、熱処理温度を高温にすることでアクチュエータとしての変位特性が向上することが確認されました(図7)。
次に、ステンレス基板上に形成したBT圧電厚膜の応用例を紹介します。図8(左)は、圧電素子を手首の橈骨動脈に押し当て、脈拍を測定した結果です。明瞭に脈動波形が検出されております。図8(右)は、素子の曲げ変形を利用した振動発電デバイスとしての評価を行ったもので、片持ち梁状に固定した素子を1回スナップ振動させた場合の出力電圧波形を示します。この結果から、数十μJ の発電が可能であることが確認されました。
今後は、さらに機能性圧電セラミック材料の組成および厚膜形成技術並びに応用デバイスの検討を進める予定にしております。

光機能材料分野の研究開発

サステナブル社会の実現に向けて、自然エネルギーの積極的な利用や希少元素を使わない材料体系の構築が求められています。本分野では、これらの課題に対し革新的な光機能材料の開発を通じて貢献することを目指し研究に取り組んでいます。具体的には、「半導体ナノコンポジット薄膜」と「鉄酸化物薄膜」に着目し、独自に考案したアプローチで薄膜合成を行っています。

半導体ナノコンポジット薄膜

2種類以上の半導体から構成される薄膜で、単独の半導体では得られない特性を発現することができます。禁制帯幅の小さい半導体を、禁制帯幅の大きな半導体マトリックスで包みナノスケールまで微小化すると、見かけ上の禁制帯幅が増加します。もしこの禁制帯幅の小さい半導体のサイズを太陽光の最も強度の強い波長に調整できれば、光を効率よく電気に変えることが可能になります。本分野では、独自のワンステップ成膜法を開発してこの薄膜合成に取り組んでいます。例えば、InSbとGeを禁制帯幅の大きなZnOに共添加すると、Geが選択的にZnO固溶して低電気抵抗化し、相分離したInSbがナノスケール化する薄膜が得られます(図7)。

鉄酸化物薄膜

鉄酸化物は、酸化の度合いに応じて様々な化合物に変化することが知られています。特に、ありふれた元素である「鉄」は、希少元素フリーの観点から魅力的です。しかし、鉄酸化物は、「酸化に弱い」、「作り方が複雑」等の課題を抱えていました。本分野では、特定の元素を微量添加することで課題を解決する取り組みを行っています。例えば、強磁性体であるFe3O4は、比較的容易に酸化され磁化を失うという問題がありました(図8:約1日で磁化が消失)。これに対し、Geを微量添加すると500日保持しても比較的高い磁化を保持し、優れた耐酸化性を発現します。また、この薄膜は、熱処理で二層構造化し、光応答性も発現します。

複合機能材料分野の研究開発

レアメタルフリーの超高密度磁気記録媒体材料への展開

逆スピネル構造を有するマグネタイトは、フェライトの中で最も大きな飽和磁化6kG を持つ強磁性体であると同時に、完全スピン分極したハーフメタル特性、およびレアメタルを全く含まないにも関わらず非常に大きな異常ホール効果を示すため、磁気センサあるいはメモリなどへの応用の可能性が期待されます。また、エピタキシャル成長に伴う整合ひずみによる格子変形によってNd2Fe14B に匹敵する107erg/ccオーダの磁気異方性の実現も理論的に予想されるため、レアメタルフリーの超高密度磁気記録媒体材料への展開も期待されます。
このような応用につながるマグネタイトの物性を薄膜の形態で最大限引き出すため、本分野では、良好な結晶性が得られる各種単結晶基板上へのエピタキシャル薄膜合成の研究を、スパッタリング法によって実施しています。

マグネタイトの研究と展開

図9にはミスフィットが0.3%と比較的小さなMgO(100)基板上に成長したFe3O4薄膜のロッキングカーブを示します。この図から、Fe3O4薄膜は、基板と同等の50arcsecオーダの半値幅を有しており、化合物半導体エピタキシャル薄膜と同等の高い結晶性が得られていることがわかります。
図10に、Fe3O4/MgO(100)エピタキシャル薄膜の室温におけるホール抵抗率ρxyの膜厚依存性を示しますが、Fe3O4薄膜のホール抵抗率は膜厚の減少とともに増加し、最大でFeと比較して200倍以上大きい30μΩcmを超える値が得られております。
上述したマグネタイトの研究以外にも、本分野ではテスラオーダの高保磁力、最大300GHzを超える高磁気共鳴周波数、および室温マルチフェロイック特性を示し注目されているε-Fe2O3相のエピタキシャル薄膜合成にも取り組んでいます。
また、写真1に示すように、ハイパーサーミアなど医療用途が期待される磁性鉄酸化物のナノ粒子コロイド合成の研究も、エキシマレーザを用いた液中アブレーション法によって始めております。

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