新機能材料創生部門

電磁機能材料分野の研究開発

ナノグラニュラー薄膜

本分野では、本法人が独自に開発した「ナノグラニュラー薄膜」を一層発展させるため、新しいメカニズムに基づく電磁気効果による多機能性を持つ新たな複合機能材料の創生を行っています。ナノグラニュラー薄膜とは、図1に示すように、nm(ナノメートル:10-9m)サイズの磁性金属粒子が絶縁体のマトリックス中に均一に分散した薄膜材料です。
この材料は、膜中の金属と絶縁体の比率に応じて高周波軟磁気特性、トンネル型磁気抵抗効果、さらには光透過性と磁気ー光学効果など、様々な機能性を示します。

トンネル磁気-誘電効果(TMD)

ナノグラニュラー薄膜において観測される磁気-誘電効果は、本分野の研究で世界に先駆け見出されたもので、ナノグラニュラー構造による量子効果、すなわち一対の粒子間のトンネル伝導による電気分極に起因したトンネル磁気-誘電効果(TMD effect:図2)によるものです。ナノグラニュラー薄膜の磁気-誘電効果は、常温において発現することが大きな特徴です。また、トンネル伝導によって電気分極を形成するため、磁性粒子間の間隔に応じて電気分極の形成しやすさが変化します。

磁気-誘電効果の高周波特性

磁性粒子間のトンネル伝導の確率を高め、電気分極を形成しやすくすると、高い周波数まで誘電性を維持することが可能になります。図3に示すように、磁性金属の比率が高くなると粒子間の間隔が狭くなるため、高周波数帯域においても高い誘電率が得られるようになります。今後この研究が進めば、従来別々の受信機を必要とした携帯電話などの高周波無線通信を一つの機器で受信することが可能となり、より小さい機器の開発に寄与すると考えています。また、従来にない新しい特性を持つ機能材料であることから、微小電池や高周波高誘電率デバイスなどの新たな有用な用途も考えられます。

光機能材料分野の研究開発

磁気ー光学効果

ナノグラニュラー膜のマトッリクスを形成するMgF2、BaF2、AlF3等のフッ化物結晶は、光透過性に優れレンズ等の光学用材料として広く用いられています。一方、FeCo合金は、最も大きな磁化を有する強磁性合金であり、その粒径が10nmを超える場合、室温において超常磁性臨界直径より大きいため、膜中でも強磁性を示します。また、粒径が10nm程度というのは、光波長に比べて非常に小さいことから、ナノグラニュラー膜は光透過性を有します。図4は、膜厚が約1μmのFeCo-AlF膜の一例ですが、膜背面の文字がはっきりと透けて見えていることが分かります。この膜は同時に強磁性を示し(図5)、透明な強磁性体です。ナノグラニュラー膜の光透過性と磁気特性の挙動は、単純にはFeCoグラニュールが強磁性の起源であり、AlF3マトリックスが光透過性に寄与していると説明することができます。
透明な磁性体であることから、ナノグラニュラー膜はファラデー効果を示します。ファラデー効果とは、磁性体に加えた磁界に平行方向に入射する光の偏光面が、磁性体を透過する際に回転する現象のことです(図6)。ナノグラニュラー膜のファラデー効果を詳細に検討した結果、ナノグラニュラー膜のファラデー回転角は、従来材(Bi-YIG)に比べていずれも極めて大きく、特に光通信に用いられる波長(1,550nm)では、Fe2lCo>14Y24F41膜は約40倍もの大きな値を有します(表1)。

表1:ナノグラニュラー膜と実用材料(Bi-YIG)のファラデー回転角の比較

高周波磁性材料分野の研究開発

GHzに対応した薄膜材料の研究開発に向けて

本分野では、3GHz 以上の周波数をフロントエンドとする第5世代移動体通信機器向けの磁気デバイスの小型化および磁気ノイズ抑制のための高周波磁性材料を開発しており、半導体デバイスに磁気デバイスが内蔵されることが予想される将来の技術動向も考慮し、その際のデバイス化プロセスに適した薄膜材料に焦点を当てています。
磁性体を高周波領域で実用化するためには、検討しておかなければならない多くの課題があります。例えば、電気的および磁気的損失です。電気的損失には渦電流損失があり、周波数の二乗で増加します。また、複素透磁率の虚数部(μ”)に起因する磁気的損失があり、高周波では磁気共鳴により急激に増加します。このμ”と周波数を掛けたものが、デバイスの損失となる交流抵抗に相当します。本分野では、本法人が開発した強磁性ナノグラニュラー薄膜に注目し、新たな成膜方法の開発、成膜条件および膜組成等を検討することにより、高周波領域でも損失の小さい優れた特性を有する新規な材料開発を進めつつあります。

強磁性ナノグラニュラー薄膜

一般に、高周波用の低損失磁性体を実現するためには、材料が、高い電気抵抗率、高い飽和磁化、および高い異方性磁界を兼ね備えることが必要です。図4は、透過電子顕微鏡で撮影した、高周波ナノグラニュラー薄膜のナノ組織です。磁性金属ナノ粒子(この場合、fcc-CoPd 合金)が、極めて高い絶縁性を有するフッ化物絶縁体(この場合、cF12-CaF2)中に孤立分散しています。本膜は、電気抵抗率が高く優れた高周波特性を有する材料として知られるアモルファス金属磁性材料の、数倍の高い電気抵抗率を持っています。また、ナノ粒子を構成する磁性金属は、高い飽和磁化と結晶磁気異方性を併せ持つCo基またはCoFe基合金です。本膜は、独自開発技術であるタンデムスパッタ法で成膜することにより、長細い磁性金属ナノ粒子が、膜厚方向(⇧)からほぼ同じ角度に膜面内へと傾いて配向することにより、膜面内方向に高い異方性磁界が誘起されます。このように、強磁性ナノグラニュラー薄膜は、高周波磁性体として望まれる要素をほぼ満たしております。
本膜の高周波複素透磁率例を示したものが図5です。μ”が最大となる磁気共鳴周波数(▼)が10GHzを超えており、高周波磁性膜として優れた特性を有することが理解されます。しかし、μ”の低周波からの立ち上がりが非常に緩慢で、透磁率の実数部(μ’)の絶対値も10以下と低いため、これらの改善が今後の研究課題であると考えております。

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