本法人では、創立以来種々な機能特性を有する金属材料を研究開発してきました。これらの材料は、現在精密機器関係を中心として多くの分野において適用されています。

T.磁性合金

(1)軟質磁性合金

a.ハ−ドパ−ム®(Hardperm)

Ni-Fe-Nb-Ta系合金で、Ni3Fe規則格子相にNbおよびTaなどの原子半径の大きな元素を添加し、規則相の生成を抑制して磁気特性を高めるとともに、固溶体硬化によって硬さを高めたものです。このため、高い耐摩耗性と下記に示すような優れた特性が得られます。

■特性(熱処理、室温の値)

初透磁率 130,000 保磁力 0.16 A/m
最大透磁率 700,000 電気比抵抗 0.8 μΩm
実効透磁率 50,000 ビッカ−ス硬度 200
(厚さ0.1mm、1kHz) 飽和磁束密度 0.8 T

■用途

電子機器用の部品または磁気シ−ルドに好適。

b.ブライパ−ム(Briperm)

Fe-Ni-Cr系合金で、Crを多量に含むので、ステンレス並みの耐食性を有し、またFe-Ni2元合金よりも磁気特性は改善されており、価格もNi量が少なく安価です。

■特性(熱処理、室温の値)

初透磁率 10,000 保磁力 4 A/m
最大透磁率 50,000 電気比抵抗 12 μΩm
実効透磁率 7,000 ビッカ−ス硬度 120
(厚さ0.1mm、1kHz) 飽和磁束密度 0.6 T

■用途

電子機器用の部品または磁気シ−ルドに適しています。

c.パ−マロイ(Permalloy)

パ−マロイ薄帯を耐熱性絶縁膜で被覆し、リングコアにトロイダル状に巻き固定することにより、角型性に優れ、高周波帯域においても優れた磁気特性を保持します。

■特性(熱処理後、室温の値)

磁束密度(10e) 0.78 T 実効透磁率 25,000 (厚さ0.01mm、10kHz)
保磁力 2A/m (0.025 Oe) 電気比抵抗 0.8 μΩm
角形率 80%以上

■用途

高感度各種磁気センサ、計測機器

d.パ−メンジュ−ル(Permendur)

Fe-Co(-V)合金で、飽和磁束密度が特に大きく、保磁力が小さい軟質磁性合金です。また、V添加によって加工性が良好で、薄板または線材に加工できます。

■特性(熱処理後、室温の値)

飽和磁束密度 2.3 T 保磁力 120 A/m(1.5 Oe)

■用途

ヨ−ク、計測機器

(2)永久磁石合金

a.プラチロン®(Platiron)

Pt-Fe系磁石合金は、磁石合金中で最高のエネルギ−積を有する最強の磁石で、かつ純白金に匹敵する高耐食性を示すことが、他に無い優れた特長です。この高耐食性を生かして医療用、歯科用および宝飾用の磁石材として使用されています。また、この磁石特性は、精密機器、オ−ディオのカ−トリッジの磁石材にも適しています。

■特性(熱処理後、室温の値)

残留磁化 1.0 T エネルギ−積 (BH)m 120 kJ/m3
(15 MGOe)
保磁力 320 kA/m
(4 kOe)

■用途

ヨ−ク、計測機器

U.特殊材料

(1)インバ−合金(Invar Alloy)

インバ−とは、加熱温度に対して伸びが非常に小さいことを言い、本法人ではFe-Ni-Coを基本組成とするニュ−ス−パ−インバ−およびコバ−ルあるいはFe-Co-Crを基本組成とするステンレスインバ−材料などが開発されました。もちろん、従来用いられていたFe-Ni二元系のインバ−あるいはFe-Ni-Co系のス−パ−インバ−材料などへの対応も可能です。

a.ニュ−ス−パ−インバ−(New Super-Invar)

磁気変態点以下の広い温度範囲で熱膨張係数が小さい。さらに、特殊な添加元素を選ぶことにより、α−γの相変態温度を極低温に低下させ、低温でも安定な低熱膨張係数が得られます。また、通常のインバ−に比較して機械的強度が高く、耐食性にも富むほかに、鍛造、圧延、機械加工などが容易であり、極細線や箔状まで加工率を上げることが可能で応用範囲が広い特長があります。機械的強さは加工率を変えることにより任意に選ぶことが出来ます。
従来のス−パ−インバ−の特性をさらに上回るため、このように名付けられました。

■特性(熱処理後、室温の値)

熱膨張係数(213〜423K) -0.07×10-6/K 伸び  34 %
ヤング率  142 GPa 磁気変態点 501 K
引張強さ 510 MPa 密度 8.12×103 kg/m3

■用途

精密機器:標準尺、マイクロメ−タ−、距離計の基板、測量用の板、線またはテ−プ
各種の温度調節装置、レ−ザ光源の器具部品など
封着:ブラウン管のアノ−ドボタン、シャドウマスク、ICリ−ドフレ−ムなど

*その他、ス−パ−インバ−もあります。

b.コバ−ル ( Kovar)

Fe-Ni-Coを主成分としますが、NiとCo量を調整し磁気変態点を上昇させ、その温度以下の熱膨張係数を利用する材料です。これによって熱膨張係数は幾分犠牲になりますが、低膨張が得られる温度領域が極めて広くなる特長があります。 熱膨張係数および機械的強さは、組成を選択することによって広い範囲で変えることができます。

■特性(熱処理後、室温の値)

熱膨張係数(213〜423K) 3.5×10-6/K 磁気変態点 708 K
ヤング率  140 GPa 密度 8.12×103 kg/m3
引張強さ 560 MPa 加工性 冷間鍛造、圧延可能、細線、箔
伸び  32 %

■用途

金属とガラスまたはセラミックの封着(特に硬質ガラス)

(2)エリンバ−合金(Elinvar Alloys)

エリンバ−とは弾性率の温度変化が小さい(温度係数が小さい)ことを言い、当所ではCo-Fe-Cr系のコエリンバ−およびエルコロイ®、あるいは Fe-Ni-Cr系のハイテリンバ−が開発されました。前二者は室温付近で、後者は広い温度範囲で小さい温度係数を示すという特長があります。
これらの材料の、さらに大きな特長は、耐力や引張強度が大きいこと、耐食性もステンレス鋼を凌ぐほど大きいことが上げられます。以下にそれらの諸特性を示します。

a.コエリンバ−(Co-Elinvar)

Co−Fe−Cr合金のCr量を調節して、弾性率の温度係数をゼロ付近にまで低下させた材料です。名前はCoを多く含むエリンバ−を意味します。

特 性(時効状態、室温の値)

ヤング率の温度係数(273〜413K) 1〜2×10-5/K 硬さ(Hv) 280〜300
熱膨張係数(273〜413K)  8.1 ×10-6/K 伸び 5 %
ヤング率  184 GPa 磁気変態点 453 K
引張強さ 1020 MPa 加工性 鍛造、圧延は熱間および冷間の組み合わせ
降伏点  882 MPa 

■用途

精密機器部品:時計のヒゲゼンマイ、音叉、音片、ばね

b.エルコロイ®(Elcolloy)

コエリンバ−の組成に特殊元素を添加することによって、より強靭で耐食性に優れたエリンバ−材料を開発しました。名前は、Elastic constant alloy の短縮形です。
用途によってエルコロイT〜 Yまであります。ここでは、現在使用中のU、W、Yについて紹介します。

(イ)エルコロイ®U

弾性率および引張強さが大きいので、各種のばね用として好適な材料です。

特 性(時効状態、室温の値)

ヤング率の温度係数(273〜413K) 0〜1×10-5/K 硬さ(Hv) 300〜350
熱膨張係数(273〜413K)  8.4 ×10-6/K 伸び 3 %
ヤング率  192 GPa 磁気変態点 333 K
ずれ弾性率  84 GPa 機械的共振尖鋭度(Q) 4000
引張強さ 1430 MPa 加工性 鍛造、圧延は熱間および冷間の組み合わせ
降伏点  − 

■用途

精密機器部品:各種のばね(板、線、棒)、音叉、音片

(ロ)エルコロイ®W

弾性率の温度係数を低い値に抑えたまま、弾性率および引張強さを幾分低めて、機械時計のヒゲゼンマイ用材料として、扱い易さを向上させました。

特 性(時効状態、室温の値)

ヤング率の温度係数(273〜413K) 0〜1×10-5/K 硬さ(Hv) 300〜400
熱膨張係数(273〜413K)  8.4 ×10-6/K 伸び 3 %
ヤング率  189 GPa 磁気変態点 330 K
ずれ弾性率  79 GPa 機械的共振尖鋭度(Q) 5900
引張強さ 1071 MPa 加工性 鍛造、圧延は熱間および冷間の組み合わせ
降伏点  − 

■用途

精密機器部品である時計のヒゲゼンマイ、音叉、音片

(ハ)エルコロイ®Y

イ)およびロ)をさらに改良して、弾性率の温度係数の温度幅を広くし、より高い強度特性と、より高い靭性を持たせたものです。また、磁気変態点がほぼ室温にあるため、非磁性〜弱磁性であるという特長もあります。

特 性(時効状態、室温の値)

ヤング率の温度係数(273〜413K) ±4×10-5/K 硬さ(Hv) 400〜600
熱膨張係数(273〜413K)  8.2 ×10-6/K 伸び 1〜3 %
ヤング率  204 GPa 磁気変態点
ずれ弾性率  85 GPa 機械的共振尖鋭度(Q) 8000
引張強さ 2040 MPa 加工性 鍛造、圧延は熱間および冷間の組み合わせ
降伏点  1460MPa 

■用途

精密機器部品:リガメント(測量機械用吊りバンド)、地震計用バネ、各種バネ

(ニ)パラコロイ®(Paracolloy)

飽和磁束密度が小さいので、外部磁界に影響されない耐磁性恒弾性合金です。さらに、硬度も高いので、外部からの衝撃にも充分耐えることができ、時計などに用いるヒゲゼンマイに最適です。

(ホ)ハイテリンバ−(Hitelinvar)

成分組成を調節し磁気変態点を750K付近まで上昇させ、広い温度範囲でエリンバ−特性を得ると同時に快削性も付与させた材料です。名前は、High temperature elinvarの短縮形です。

特 性(時効状態、室温の値)

ヤング率の温度係数(173〜673K) ±1.0×10-5/K 硬さ(Hv) 250
熱膨張係数(273〜323K)  5.9 ×10-6/K 伸び 20%
ヤング率  190〜210 GPa 磁気変態点 743 K
ずれ弾性率  59 GPa 機械的共振尖鋭度(Q) 8000
引張強さ 820 MPa 加工性 鍛造、圧延は熱間および冷間の組み合わせ、切削性良好
降伏点  765 MPa  

■用途

高温用圧力センサ、ガスセンサ用ダイアフラム、高温用バネ、ネジレセンサ、メカニカルフィルタ、セラミックス接合材 

(3)高弾性合金(High Elasticity Alloys)

a.ダイヤフレックス(Dia-flex)

前記のコエリンバ−やエルコロイ®と基本的には類似の面心立方型の材料ですが、MoやWなどを加え加工硬化性を増し、さらに時効処理によって微細化合物を析出させ、強度を高めました。名前は、ダイヤのように硬く、それでいて靭性(flexibility)に富む意味からつけられました。

特 性(時効状態、室温の値)

引張強さ 2550MPa 伸び 3〜5%
耐力 1220Mpa 熱膨張係数(273〜413K) 13.4×10-6/K
ヤング率 235GPa 磁気変態点 250K
ずれ弾性率 89GPa 密度 8.6×103kg/m3
硬さ(Hv) 680 加工性 非常に硬いため冷間加工は難しいが、逆張力付伸線機により引き抜きを行うなどして、直径0.1mm程度の細線も得られます

■用途

各種ばね:弾性率の温度係数は-18×10-5/K程度のように大きいので、これを考慮した用途とします

b.ウルトラフレックス(Ultra-flex)

前述のダイヤフレックスに微量の特殊元素を添加し、時効処理によって、さらに多くの微細化合物を析出させ、ねじり、曲げなどの疲労強さを上昇させた材料です。名前は、ダイヤフレックスのさらに上を行く、強さをもつ材料ということからつけられました。

特 性(時効状態、室温の値)

引張強さ 2550〜3260 MPa 伸び 1〜3%
耐力 1840〜2040 MPa 熱膨張係数(273〜413K) 12.3×10-6/K
ヤング率 220 〜 230 GPa 磁気変態点 250K
ずれ弾性率 密度 8.5×103kg/m3
硬さ(Hv) 500〜800 加工性 硬さはダイヤフレックスと同程度であるが、細線までの加工が容易です

■用途

各種精密ばね、医療機器用部品、事務機用部品

(4)電気抵抗合金

a.パラシル®(Pallasil)

Pd−Ag系合金で、273〜873Kの広い温度範囲にわたり、非常に小さい電気抵抗の温度係数を有し、高温度においても耐食性に優れており、加工性も極めて良好で、細線または薄板にし渦電流式センサなどに使用されています。

特性(熱処理後、室温の値)

電気比抵抗 0.41 μΩm 抵抗温度係数(TCR) -1 ppm/K 
(273〜673K)
+17 ppm/K (273〜873K)
耐力 硬さ(Hv) 82

■用途

精密抵抗素子材、渦電流式変位計、基準抵抗器など

b.ピ−ラス®(Pieras))

Pd−Fe系合金で、PtおよびNiよりも電気抵抗およびその温度係数が大きく、加工性も良好で、細線または薄板にできるので、高感度ガスセンサおよび感温センサとして好適です。

特性(熱処理後、室温の値)

電気比抵抗 0.42 μΩm 抵抗温度係数(TCR) 7000〜9000ppm/K(273〜673K)
耐力 硬さ(Hv) 250

■用途

高感度ガスセンサ、高性能温度センサ、その他各種温度機能素子など

(5)吸振合金(High Damping Alloys)

住環境や職場環境に対して悪影響をもたらすものに騒音や振動があり、近年では公害という名のもとにその排除に対する要望が強まっています。その障害を完全に取り除くか、あるいは出来るだけ軽減させる目的で開発されたのがジェンタロイ®合金です。
合金の種類としては、強磁性タイプのFe系(F- 3)と非磁性タイプのAl系(A-1,2)があります。これらは、いずれも高い吸振特性を持ち、合金によっては高い機械的強度を保有するものもあり、強くもの静かな合金という意味で、ジェンタロイ®(Gentalloy=Gentle Alloyの短縮形)と名づけられました。

a.ジェンタロイ® F-3

Fe−Cr基合金で、耐食性に優れ、加工性も良好です。

特性(熱処理後、室温の値)

減衰能 40x10-3 硬さ(Hv) 158
引張強さ 45 kg/mm2 熱膨張係数 9.7x10-6/K
伸び 24 % 密度 7.83x103 kg/m3

■用途

自動車、機械、医療機器、計測機器、音響機器などの、防音および防振対策に好適です。

b.ジェンタロイ® A−1

Zn−Al基合金なので、非磁性で密度が比較的小さく、加工性も良好です。

特性(熱処理後、室温の値)

減衰能 50x10-3 硬さ(Hv) 40
引張強さ 15 kg/mm2 熱膨張係数 9.2x10-6/K
伸び 50 % 密度 5.25x103 kg/m3

■用途

自動車、機械、医療機器、計測機器、音響機器などの、防音および防振対策に好適です。

c.ジェンタロイ® A−2

Al基合金に特殊元素を添加した合金で、非磁性で密度がAl並に小さく、加工性も良好です

特性(熱処理後、室温の値)

減衰能 30x10-3 硬さ(Hv) 52
引張強さ 熱膨張係数 9.2x10-6/K
伸び 密度 2.8x103 kg/m3

■用途

自動車、機械、医療機器、計測機器、音響機器などの、防音および防振対策に好適です。